= あるえ物語 =
読書と神話、ときどき雑記 童心の権化あるえのブログ
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【ウェールズ神話1】あの有名な英雄王伝説の原点「マビノギ四枝」を綴る

 

ども、あるえです。
今日は久々に夕方以降自由な時間ができたので、2記事目を書いてる所存です。

ところで皆さんは「ウェールズ神話」をご存知だろうか?恐らく聞き慣れないのではないでしょうか。では「円卓の騎士物語、アーサー王伝説」はどうだろう?これなら名前を聞いたことがある人はいるかもしれない。

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円卓の騎士

ウェールズ神話はヨーロッパ地方に広く浸透したケルト神話の一部で、中でもウェールズ地方の吟遊詩人によって伝えられた物語群が該当する。ちなみにアイルランド神話もある。この神話を元に着想されたのがアーサー王の伝説である・・らしい。らしいというのは歴史学的に確証されてないからですが、もしこれが解明され真実だった場合はウェールズの神話・伝説・文化・言語の歴史に対する史料的価値は計り知れないものとなるらしいです。


マビノギ四枝


ウェールズ神話の主な資料となっているのは『マビノギオン』と呼ばれるもので、全11話のマビノギオンの中でもっとも神話的価値がある物語は、ひとりの作者(話者)によってまとめられたとされる「マビノギ四枝」です。

マビノギ四枝はすべて “thus ends this branch of the Mabinogi”(これでマビノギのこの枝はおしまい)という定型句で終わっており、これが「マビノギ四枝」の名前の由来となっています。このことからわかるようにウェールズ神話は神や一部の人物は共通こそしていますがそれぞれ個別の話が持ち寄られたオムニバス形式です。

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マビノギオン

また他の神話とは違い実際の地名が使用されている。これはマビノギ四枝の成立が1060~1200年の間と比較的近代的な神話なのと関係しているかもしれない。日本でいえば平安時代末期から鎌倉幕府成立くらいの期間ですね。

四枝のサブタイトルは次の通り。
第一枝『ダヴェドの王子プイス』
第二枝『スィールの娘ブランウェン』
第三枝『スィールの息子マナウィダン』
第四枝『マソヌウイの息子マース』

今日はこの中から第一枝と二枝について記事にしたいと思います。


第一枝「ダヴェドの王子プイス」


この物語はダヴェド国の王子プイスが猟に出かけたところから始まる。

プイスは殺された牡鹿に群がる猟犬の群れに出くわす。プイスはその猟犬たちを追い払い、自分の連れていた猟犬たちに鹿を食わせるが、このことで異界の王国アンヌンの王アラウンの怒りを買う。

その償いとしてプイスは、一年と一日のあいだアラウンの外見をとって彼と土地を取り替えることに同意し、アラウンの宮廷に身を置く。プイスは一年が経つ頃アラウンの宿敵ハヴガンとの一騎打ちに臨み一撃で致命傷を与え、アンヌン全土にわたるアラウンの支配権を勝ちとる。

ハヴガンの死後プイスとアラウンは再会し、もとの外見に戻ってそれぞれの宮廷に復帰する。またプイスは領地を交換していた間、アラウンの妻に一度も触れなかったこともあり彼の高潔さを認め二人は信頼を得て友誼を結ぶ。

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ウェールズの城

プイスはダヴェドに帰還したあと、領地の丘でリアンノンの来訪を目撃する。彼女は黄金の絹の錦を身にまとう美しい女性で、輝く白い馬に騎乗していた。プイスは優秀な部下に追うように命じるがなぜか誰にも彼女の騎乗する馬に追いつけなかった。三日後プイスが呼びかけると彼女は呼びかけに応えた。

彼女は彼に対し、彼女の婚約者であるクリトの息子グワウルよりも彼のほうと結婚したいので彼を探しにきたのだと語る。これによりプイスはリアンノンと婚約するが、その婚礼の宴に彼女の前の婚約者であったグワウルが現れ、彼の策略によって花嫁は奪われてしまう。しかしプイスはリアンノンの提案していた策略に従い、グワウルを決して満たされることのない魔法の袋に閉じこめて、今度こそリアンノンとの結婚にこぎつけた。

三年後にリアンノンはプイスとの子供を産んだが、生まれたその夜にリアンノンの6人の侍女たちが見張っているなかで消失してしまう。王の怒りを避けるため、侍女たちは眠っているリアンノンに犬の血を塗りたくり、彼女が自分の子どもを食べて殺すという嬰児殺しと人食の罪を犯したのだと主張する。こうしてリアンノンは罰として訪れる客すべてに自分の罪を語り、客を背負って運ぶことを強要された。

実際には子供はプイスの元家臣のテイルノンと彼の妻の馬小屋で発見されていた。子供は金髪のグウィリと名付けられ、テイルノンの元で育てられていた。この子は超人的な速さで大人になっていき、成長するにつれてプイスの面影があらわれはじめ、テイルノンはグウィリは王子プイスの子であることを悟り、王子の元へ帰した事によりリアンノンは罰から解放された。プイスの元に戻ったグウィリはプレデリと名を改めた。しかしこの後プイスは死にプレデリが王位継承する。

これでマビノギのこの枝はおしまい。


第二枝「スィールの娘ブランウェン」


この物語はアイルランド王マソルッフが強国ブリテンの王ベンディゲイドブラン(以下ブラン)と話し合いと、妹ブランウェンに結婚を申し込み両国の島に同盟をもたらす為のハーレフ遠征の話から始まる。

ブランは結婚を承諾するがブランウェンの異父兄弟であるエヴニシエンは二人の結婚について自身への説明がなかったことに怒り覚え、マソルッフの馬を斬り殺して彼を侮辱します。しかしブランは作法に則り、新しい馬と死者を復活させることができる魔法の大釜をマソルッフに贈り償いました。これにマソルッフは喜びブランウェンとアイルランド統治の為、船で戻りました。

遠征からアイルランドに帰還し、ふたりの間に子供が生まれグウェルンと名付けられました。アイルランドの人々は一度は妃ブランウェンを歓迎したものの、マソルッフが受けた侮辱に再度不満が漏れ出します。このことへの助言を受けたマソルッフの命令でブランウェンは厨房に閉じこめられ毎日殴られるようになります。ブランウェンはひそかにホシムクドリを手なずけてブランに手紙を送り、憤慨したブランはマソルッフに戦争を仕掛けた。

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ブランと殺された甥グウェルンの像

ブランの軍隊はアイリッシュ海を船で渡った。侵攻に恐れをなしたアイルランドは和平を提示してブランを歓待する大きな屋敷が造られ、中には小麦粉を包んだ百の袋があったが実際には武装した兵士がその中に潜んでおり不意打ちを行う腹積もりであった。

しかしエヴニシエンは計略を疑い、屋敷を調査して袋詰めの兵士の頭をたたき割り皆殺しにした。その後計略がバレたとは露知らずアイルランドは歓待するがエヴニシエンはこれを侮辱と取ってグウェルンを火に放り込み、戦闘が始まった。

アイルランド軍が償いで贈った死者を復活させる大釜を使っていることに気づいたエヴニシエンは自らの命を犠牲に、死体の中に隠れて大釜を破壊しアイルランドを追い込んだ。

戦いの結果、プレデリ、マナウィダン(ブランの弟)、ブランを含む七人のウェールズ人のみが生き延びたがブランは毒の槍で致命的な傷を負っていた。ブランはみずからの首を切ってブリテンに持ち帰るように命令した。ブリテンに着けば、魔法のかけられた食物を口にしている限りいくらか生き延びることができるからである。ブランウェンは救出されたが帰還の途中で失意のあまり自殺してしまった。

一方アイルランドには五人の妊婦が生き残り、ふたたびアイルランドに人を増やした。 

これでマビノギのこの枝はおしまい。

 

あとがき

共通してプレデリという人物が登場するが、これについては諸説ある。もともとプレデリの伝説が主であったのか、逆にプレデリのほうが、異なる起源の物語をつなぐ存在として後から取り入れられたのかは不明のままだ。

またケルトの神話によく現れる特徴のひとつは妖精の民シーで、彼らは化けることを得意とし、しばしば人間として現れていた。彼らはまた物の外見を変えることもできた。アラウンが彼とプイスの外見を取り替えることができたということは、彼が妖精の民に属することを示唆していた。

 リアンノンもまた妖精の民の一人でありうる。ずっと並足のように見えるにもかかわらずプイスの騎士たちの前を行きつづける馬に追いつけなかったのは、彼女の作りだした幻影のためである。妖精たちはときおり人間たちと性的関係をもつことが知られており、こうした関係はつかの間のものであったが、あるときはリアンノンとプイスがそうであったように継続するものであった。

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妖精

リアンノンが妖精であったので彼女の息子は半妖精となり、これが彼が超人的な速さで成長できた理由である。リアンノンとプイスの息子の場合のように、妖精たちにとって子どもを盗むことはいくぶんありふれたことでもあった。これが消失の原因である。

 

ウェールズ神話いかがでしたか?話はまだあと二枝残っていますが、私がこの神話を記事にするにあたり我ながらまぁ挑戦的だなと思いました(笑)

なぜならそのもの自体の認知度の低さ故ですが、かくいう私も当時この神話についてはまったく知りませんでした。しかしアーサー王の話に触れ、調べていくにつれこの神話にたどり着きました。個人的には人間臭い話の中にわずかに漂うファンタジー要素が心地よく感じます。実際に吟遊詩人の語り部を聴いてみたいものです。

これをきっかけにこの神話に、ウェールズの伝承に興味を持っていただければ幸いです。ウェールズ神話については短編集となりますので次回で完結ですが、もし・・需要があるのでしたら番外編としてアーサー王の話も記事にしたいと思います。

では、また♪

 

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