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【北欧神話7】トールの愉快なヨトゥンヘイム冒険譚 後編

 

北欧神話小話 

眠りを必要とせず、夜でも昼と同じく100マイル先を見ることができ、草の伸びるわずかな音でさえも聞き取る鋭い耳を持っていたヘイムダル、彼はアースガルズと地上を繋ぐ虹の橋ビフレストの門番の役目を負う。彼の持つ角笛ギャラルホルンが豪笛を鳴らした時「神々の黄昏ラグナロク」は訪れる。

 

 

さてさて本日は前回、トールら一行がヨトゥンヘイムへ立ち入り、スクリューミルという巨人と出会い、彼と別れた話の続きと後日談との話となります。

トールが体験した不思議で可笑しな冒険譚。今回もお楽しみ下さい。

ウートガルズでの余興

トール一行は、スクリューミルの忠告通りひたすら東に進みます。するとトールたちは大きな平野に着き、その真ん中には大きな城がありました。頂上は天を穿ち、鋼鉄の門が完全に閉まっていた。トールは鉄の門を開けようと試みたがびくとも動かない。幸い鉄格子の目が粗かったので、トールたちはその隙間からもぐりこむ事が出来た。

中に入ると大勢の巨人が闊歩している。どの巨人もスクリーミルが可愛く見えるほど大きい。その中にウトガルド・ロキ王がおりトールたちは王座の前に出て謁見します。するとウトガルド・ロキ王は、にやりと笑いながらこう言った。(ややこしいですがロキとウトガルズ・ロキは別人物です)

「ようこそ巨人の城ウートガルズへ。そこにいる者はアースガルズのトールと見た。ところでお主たちは、何か特技は持ちえていないかな?何でもいい。ここには特技の無い奴は一人も居ないのだから。」

これに対しロキは「早食い」と答えます。ウトガルド・ロキはロギというものを呼び、ロキと早食いを競うように命令した。ルールは桶の中に入っている肉を早く平らげたほうが勝ち。ロキは物凄いスピードで肉を食べたが、ロギはロキよりも早く食べ、おまけに骨や桶までも口に入れてしまう。圧倒的にロギの勝利である。

次に農民の息子チアルフは何が出来るんだとたずねた。チアルフは「足の速さが自慢」と答えます。するとウトガルド・ロキはフギという名の少年を呼びチアルフと競争をしろと命令した。

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この物語が書かれた教本スノッリのエッダ

競争が始り、チアルフはぼろ負けする。「確かに早いが、フギに勝つためにはもう少し努力しないといけないぞ。」とウトガルド・ロキは言った。そして二回目も三回目もあっさり負けてしまう。

さて次はいよいよトールの番です。「君は武勇伝が沢山あるが、今日はどんな技を見せてくれるんだ。」とウトガルド・ロキが問うとトールは「酒の飲み比べ」と応じます。

するとすぐに角杯が用意された。「イッキできたら素晴らしい。二口で飲み干すものも何人かいる。しかし三口で飲めないものは、ひとりもいないぞ。」とウトガルド・ロキは焚きつけます。

トールはのどが渇いていたので、酒を一気に飲んだ。そして角杯をテーブルに置くと、酒はほとんど減ってなかった。これにトールも驚きます。二口目は前よりも気合を入れて、息が続く限り飲んだが酒の水位は殆ど下がっていない。怒ったトールは猛烈な勢いで飲んで酒は減ったが、角杯にはかなりの酒が残っていた。
ウトガルド・ロキは「どうした?別の技を試してみるか?」と問うとトールは応じます。すると
「たいしたことないが、子供たちの間で流行している戯れでわしの飼っている猫を持ち上げる、ただそれだけ。簡単だろ。」と提案されます。

トールは満身の力を込めて、猫を持ち上げました。しかし一本の足が床から少し離れただけだ。どれだけ力を込めても無駄であった。

ウトガルド・ロキは残念だと悲観してみせます、これに怒ったトールは自ら今度は押し合い(相撲みたいなもの)をしたいと申し込みます、巨人の王はこれに応じエリという老婆をトールの相手に推薦しました。

この侮辱にトールは憤慨し、容赦なくエリに突っ込みますが老婆を押すことはかなわず、トールは押し寄せる老婆を押し返す事もできず敗北してしまった。

ウトガルド・ロキは「情けないな、だが良い余興だった、楽しませてもらった」と満足げに言いました。そして空が赤く染まった頃、トールたちを広場に案内し一晩中宴会が開かれた。

夜が明けトールたちは目を覚まし、帰り支度をした。ウトガルド・ロキは彼らを送ろうとしたとき、トールに向かって今回の旅の感想を尋ねました。

トール「プライドがズタズタに引き裂かれた。つまらん男だと思われているかもしれないが、そう思われるのが一番つらい。」と答えました。

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三つの穴が空く山

これを聞いた巨人の王は満足げに笑いながら「本当のことを話してやろう。わしは術を使ってお前たちの目を惑わしてきたんだよ。森の中で出会った時からな。そう、スクリーミルはわしが変身していたのだ。袋の紐は魔法をかけておいた、だから中身を取りだすことは絶対に不可能であった。お前がミョルニルでわしを殴ったとき、わしはすばやく「山」を替え玉にしたのだ。そうでもしないと死んでしまう。あの山を見てみろ、穴が三つ空いている、あれはお前が「山」を殴った跡だ。」

トールは絶句します。
「早食い勝負の相手であったロギの正体、あれは「炎」だ。だからすさまじいスピードで肉を食ったし、桶も骨も平らげることが出来た。かけっこの相手であったフギの正体、あれは「思考」だ。足の速いチアルフも「思考」にはかなわない。」

トールは「おれはどう騙した?」と尋ねます。

「飲み比べの時、酒が減らないように見えたが、角杯の端は海に通じていた。だから水位が減ったときは驚いた。つまり、海の水が減ったんだ。猫を持つ戯れ、あの猫の正体は「大蛇ヨルムンガルド」だ。ヨルムンガルドと言えば、陸地をぐるりと取り巻いている。片足が上がったときは驚いた、なんせ大地が揺れたんだから。婆さんとの取り組み、お前が相手にしていたのは「老い」だから。どんな強靭な肉体も「老い」には勝てない。」
トールはここまで聞くと激怒しミョルニルを振りかざし、ウトガルド・ロキを叩こうとした。しかし、あたりは美しい平野が見えるだけで、ウトガルド・ロキはおろか城も完全に消えていた。

完全に手ごまにされたトール達はしぶしぶアースガルズへ引き返した。

後日談「トールの釣りバカ?日誌」

トールは先の一件もあり大蛇ヨルムンガルドを探すことにします。戦車ものらず、馬にものらず、同伴者もなしで一人旅でます。そして夕方頃に、ヒュミルという巨人の家で宿をとった。翌朝、ヒュミルは海へ釣りに行くというので、トールはこれを好機だと思い同行を願い出ます。ヒュミルはしぶしぶ同行を認めました。

トールは釣りのエサを持っていなかったので、ヒュミルが飼っている牛の中で、一番大きな牛の頭をもぎとって、浜辺に戻った。こうして二人は、沖に行くためにボートを漕いだ。

船はやがてヒュミルがいつも釣りをするところまで来ると、トールは「せっかくだから、もっと沖まで。」と言った。そして二人はまたボートを漕いだ。しかし、ヒュミルは言います「これ以上は危ない。大蛇ヨルムンガルドが現れるぞ」と。

それでもトールはボートを漕いだのでヒュミルは不安がります。そうトールの目的は初めからそのヨルムンガルドだ。トールは釣り糸を出した。ダダの釣り糸ではなく太くて丈夫な鋼の糸であった。トールは釣り針に「牛の頭」をつけ、海に投げ込んだ。

大蛇ヨルムンガルドは簡単に引っかかった。しかし釣り針はアゴに刺さり大蛇は大暴れします。トールは足を猛烈に突っ張ると両足が舟板を踏み破って、トールの靴底は海底についた。(それだけ強い力で踏ん張った、って言い回しでしょう)ついに彼は、舟の近くまで大蛇を引っ張りあげます。

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糸を切ろうとするヒュミル

ヨルムンガルドも反撃します。なんとトールに猛毒を吹き付け、鋭い眼光で睨みます。巨人ヒュミルは真っ青になり、恐怖に陥ります。(そりゃそーだ)

トールがミョルニルを空中に振り上げた瞬間、ヒュミルは恐怖のあまりナイフで釣り糸を切ってしまい、大蛇は海に沈んだ。トールはミョルニルを大蛇に投げつけ、ミョルニルは大蛇の頭に直撃したが、大蛇を殺すには至らなかった。

大蛇殺しのチャンスを失ったトールは、ヒュミルを海へ蹴り落とし殺してしまった。その後トールは海を歩いて帰路に着いた。

あとがき

トールの冒険はどうでしたか?まず、すべてのとばっちりを受けたヒュミルさんが不憫でなりません(笑)トールも確かになかなか不憫ではありますがね。そしてウートガルズの余興の場面、確かに笑い話ではありますが、なかなか心理をついた話だと感じます。

老いは引けど押せど迫りくるものだし、思考の早さに物理的な足の速さが敵うわけがありません、ただただ想像力、発想力に脱帽です。

ちなみに今回の冒険は「スノッリのエッダ」という教本の中の話で「古エッダ」ではヒュミルの話は少し違います。今回は一連性のある「スノッリのエッダ」話を採用させて頂きました。

引き続き次回もトールの話となります。北欧神話においてかなり有名な話ですのでご存知の方もいるかもしれませんね。

 

では、また次回♪

 

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※神話の内容につきましては諸説あります。この記事の内容はあくまで私の得た知識から成り立つものとなりますのでご了承くださいませ。